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「上顎洞が近い」と言われたインプラント|CTでわかることと、ソケットリフト・サイナスリフトの分かれ目

インプラントの相談で「上顎洞(じょうがくどう)が近い」と言われた。それは、上の奥歯の骨の高さが限られているという意味です。ただし、それだけでインプラントができないと決まったわけではありません。CTで何を確認し、どう治療方法を選ぶのか。その流れを順にご説明します。

治療を急いで決めなくても大丈夫です。まずは選択肢と注意点を知り、“ご自身の基準”を作ることから始めましょう。

【“上顎洞が近い”とは、どういう状態なのか】

上顎洞は、鼻の左右、頬の奥に広がる空洞です。副鼻腔(ふくびくう)のひとつで、上の奥歯の根の先は、この空洞のすぐ下にあります。

歯が抜けると、その歯を支えていた骨は時間とともに痩せていきます。上顎洞の側も、下に向かって広がってくることがあります。

その結果、インプラントを埋め込む部分の骨が、上下から薄くなっていく。これが「上顎洞が近い」と言われる状態です。

このまま埋入すると、インプラントの先端が上顎洞に突き抜けるおそれがあります。骨の高さをどう確保するかを、手術の前に決めておく必要があります。

【問診やCTで確認する8つのポイント】

上顎洞の底を持ち上げて骨を増やす手術を、上顎洞底挙上術(じょうがくどうていきょじょうじゅつ)といいます。日本口腔インプラント学会の『口腔インプラント治療指針2024』は、この手術の前に確認する項目を挙げています。その中から、主なものをご紹介します。

横浜(妙蓮寺)の診療室でも、歯科用CTの立体画像と問診をもとに、これらを一つずつ確かめています。

① 全身の状態

糖尿病や心臓の病気、服用中のお薬などを確認します。外科処置に耐えられるか、治りに影響する要因がないかを見るためです。

② 埋入する部位

同じ上あごでも、前寄りの奥歯と一番奥の歯とでは、骨の条件や上顎洞との位置関係が変わります。

③ 骨の頂上から上顎洞の底までの高さ

方法を選ぶうえで、もっとも基本になる数値です。ただし、これだけで決めることはしません。

④ 上顎洞の底の形

底が平らか、斜めか、仕切り(隔壁)があるか。持ち上げやすさや、粘膜の破れやすさが変わります。

⑤ 上顎洞の粘膜の厚さ

粘膜が極端に薄い、あるいは厚く腫れている場合は、術式や時期を慎重に考えます。

⑥ 上顎洞の中の病変

炎症や嚢胞(のうほう=液体がたまった袋)がないかを確認します。

⑦ 自然孔(しぜんこう)が開いているか

自然孔は、上顎洞と鼻腔をつなぐ交通路です。ここがふさがっていると、手術後に上顎洞炎を起こしやすくなります。

⑧ 喫煙の有無

喫煙は粘膜や骨の治りと、インプラントの長期の経過に影響します。

歯科用のレントゲン写真だけでは、④〜⑦のような立体的な情報はほとんど読み取れません。CTで診断の材料をそろえてから、はじめて具体的な方法をご提案できます。

【検査の結果で、治療の道は3つに分かれます】

1:骨を増やさずに埋入する

骨の高さがある程度残っていれば、短いインプラント(ショートインプラント)を選ぶ方法があります。インプラントを斜めに傾けて埋入し、上顎洞を避ける方法もあります。

骨を増やす手術を避けられるなら、それが身体にとって一番負担の少ない選択です。

2:ソケットリフト(歯槽頂アプローチ)

インプラントを入れる穴から、上顎洞の底を押し上げます。切開が小さく、多くはインプラントの埋入と同時に行います。

持ち上げられる高さは、条件によって3〜5mm程度とされています。

3:サイナスリフト(側方アプローチ)

上あごの骨の側面に小さな窓を開け、上顎洞の粘膜を直接見ながら持ち上げます。骨がかなり少ない場合でも、必要な高さまで骨を増やせる方法です。

■2と3の違い(指針の比較表より)

  • 身体への負担:ソケットリフトは比較的小さい/サイナスリフトは比較的大きい
  • 手術中の見え方:ソケットリフトは直接見えない/サイナスリフトは目で確認できる
  • 使えるインプラントの長さ:ソケットリフトは制限がある/サイナスリフトは長いものも選べる
  • インプラントが上顎洞に入り込むリスク:ソケットリフトは既存の骨が低いほど高い/サイナスリフトは低い
  • 粘膜が破れたとき:ソケットリフトは確認も修復も難しい/サイナスリフトは確認でき、修復できる
  • 持ち上げられる高さ:ソケットリフトは3〜5mm程度/サイナスリフトは必要な高さまで

■同じ日に入れるか、骨ができるのを待つか

骨を増やす手術とインプラントを同じ日に行えるのは、埋入した時点で初期固定が得られる場合です。

残っている骨が少なく、固定が得られにくいときは、先に骨を増やします。骨が成熟するのを4〜6ヶ月ほど待ってから、インプラントを埋入します。

【実際の手術から:6本を同じ日に埋入したケース】

先のブログでも挙げましたが、先日、計6本のインプラントを同じ日に埋入する手術を行いました。上あごの左右の奥歯にはソケットリフトを併用し、下あご右側の3部位もあわせて行う計画です。

上あご側は、骨の高さが限られていました。CTで上顎洞の形や粘膜の状態を確認し、ソケットリフトで対応できる範囲と判断しています。骨の条件と全身状態が整っていたことが、同日にまとめられた前提でした。

本数が多くなると、手術時間は長くなります。そのため、歯科麻酔認定医による静脈内鎮静法を併用できる体制を整えています。点滴でうとうとした状態をつくる麻酔です。

多数歯を同時に埋入するかどうかの判断や、鎮静法の仕組みは、こちらの記事にまとめています。

→ インプラントを一度に何本も手術できる?多数歯同時埋入と静脈内鎮静法の考え方
https://d-sakaki.com/2026/10/05/%e3%82%a4%e3%83%b3%e3%83%97%e3%83%a9%e3%83%b3%e3%83%886%e6%9c%ac%e3%82%92%e4%b8%80%e5%ba%a6%e3%81%ab%e6%89%8b%e8%a1%93%e3%81%a7%e3%81%8d%e3%82%8b%ef%bc%9f%e5%a4%9a%e6%95%b0%e6%ad%af%e5%90%8c%e6%99%82/


【上顎洞底挙上術を行わない・延期するケース】

指針は、次の3つを禁忌症(行うべきでない条件)として挙げています。

  • 上顎洞の中に炎症や嚢胞などの病変がある
  • 自然孔がふさがっている
  • 喫煙量が多い(ヘビースモーカー)

このほか、次のような場合は時期や方法を慎重に検討します。

  • 血糖のコントロールが安定していない
  • 骨吸収抑制薬(骨粗しょう症などのお薬)を使用している
  • 歯周病の治療や管理が済んでいない

上顎洞の炎症は、耳鼻咽喉科での治療で落ち着くことがあります。その場合は、治ってから改めて計画を立てます。

「今はできない」でも「ずっとできない」わけではありません。一方で、検査の結果、インプラント以外の方法をおすすめすることもあります。

【手術のあとの過ごし方】

上顎洞の粘膜を持ち上げた後は、しばらく上顎洞に圧をかけないことが大切です。手術後の一定期間、次のことを控えていただきます。

  • 強く鼻をかむ(鼻水はやさしく拭き取る程度に)
  • 口を閉じたままのくしゃみ(口を開けて逃がす)
  • ストローで強く吸う
  • 吹奏楽器などの演奏
  • 激しい運動、長時間の入浴、飲酒
  • 喫煙


腫れや内出血は、多くの場合1〜2週間ほどで落ち着いていきます。サイナスリフトはソケットリフトより腫れが出やすい傾向です。痛みの多くは、処方する鎮痛薬で抑えられる範囲にとどまります。

鼻血が続く、強い痛みや腫れがぶり返す、鼻から空気や水が漏れる感じがある。こうした場合は、早めにご連絡ください。

【骨を増やしたインプラントは長く使えるのか】

上顎洞底挙上術とあわせて入れたインプラントについては、複数の研究をまとめて分析したシステマティックレビューがあります。

  • 側方アプローチを中心とした48研究の解析:3年後の残存率は約90%。表面が粗いインプラントを使い、骨の窓を膜で覆った条件では約98%
  • 歯槽頂アプローチ(ソケットリフト)の19研究の解析:3年後の残存率は約93%。骨を増やしていない部位と同程度

ただし、同じ論文では患者さん単位の分析も示されています。3年間に1本以上のインプラントを失った方も、一定の割合でいました。

数字は研究全体の平均で、個人の結果を保証するものではありません。長く使えるかどうかは、喫煙、歯周病の管理、糖尿病など全身疾患の有無、かみ合わせ、手術後のメインテナンスに大きく左右されます。

【費用と治療期間(横浜さかきばら歯科・矯正歯科の場合)】

骨造成を伴うインプラント治療は自由診療です。

■1本あたりの費用の目安

  • 骨を増やさない場合:約50〜58万円
  • ソケットリフトを併用する場合:約60〜65万円
  • サイナスリフトを同時に行う場合:約75〜82万円


インプラント体、手術、静脈内鎮静法、上部構造(かぶせ物)を含めた目安です。幅は主に上部構造の種類によるもので、1本につき約5万円の差があります。

術後消毒(720円〜)、型どり(6,600円)、補綴処置(5,500〜11,000円)は別途かかります。

先に骨を増やして待つ段階法は、範囲や本数によって費用が大きく変わります。複数本をまとめる場合は、静脈内鎮静法麻酔は1回分で良いので、1本あたりの金額を本数分足した額ではなく、コストを抑えることができます。総額は、CTによる診査のあと個別のお見積もりでお伝えします。

■治療期間の目安

  • 骨を増やさないシンプルなケース:3〜4ヶ月
  • ソケットリフト・サイナスリフトを同時に行うケース:6ヶ月前後
  • 段階法:骨造成後4〜6ヶ月待ってから埋入するため、さらに長くかかります


治りの経過によって、期間は前後します。

【よくあるご質問】

1.「上顎洞が近い」と言われました。必ず骨を増やす手術が必要ですか?

必ずではありません。残っている骨の高さや質によっては、短いインプラントや傾斜埋入で対応できることがあります。CTで確認したうえで、骨を増やす必要があるかを判断します。

2.蓄膿症(副鼻腔炎)と言われたことがあります。インプラントに影響しますか?

上顎洞に炎症が残っている間は、上顎洞底挙上術は行いません。CTで状態を確認し、必要に応じて耳鼻咽喉科での治療を先にお願いします。落ち着いてから改めて検討致します。


3.タバコを吸っていても、上の奥歯のインプラントはできますか?

喫煙量が多い場合、上顎洞底挙上術にはリスクがあるとされています。喫煙は粘膜や骨の治りにも悪影響があります。禁煙や本数を減らすことも含めて、治療前にご相談ください。



4・手術後、鼻から出血することはありますか?

手術後しばらく、少量の鼻血が出ることがあります。出血が続く場合や、強い痛み・腫れが出た場合は、早めにご連絡ください。


【安全性について】

■インプラント治療と上顎洞底挙上術は外科処置です。次のようなリスク・副作用があります。

  • 術後の腫れ、痛み、内出血
  • 上顎洞粘膜の穿孔(破れ)。術中に見つかった場合は修復処置を行います
  • インプラント体が上顎洞内に入り込むこと(既存の骨が少ないほどリスクが高くなります)
  • 感染、術後の上顎洞炎
  • インプラント体が骨と結合しないこと
  • 追加処置が必要になること

※静脈内鎮静法を併用する場合は、呼吸抑制、血圧低下、悪心などの偶発症が起こる可能性があります。術前の絶飲食や当日の運転禁止などの制約があり、全身状態や服薬内容によっては適応とならないことがあります。

※治療内容・結果・治癒経過・費用・期間には個人差があります。自由診療のため、費用・期間は目安であり、症例により変動します。

【監修者:榊原 毅】

日本口腔インプラント学会 専門医/日本包括的矯正歯科学会 副代表理事/日本歯周病学会 認定医/日本矯正歯科学会 会員/インビザライン認定医/厚労省認定臨床研修指導歯科医(東京科学大学 歯学部)

「不安を煽らず、できること・難しいことも含めて丁寧に説明し、納得して選べる診療を心がけています。」

参考文献

1.日本口腔インプラント学会『口腔インプラント治療指針2024』(13章 骨組織,軟組織のマネジメント/表22・表23 上顎洞底挙上術)


2.Pjetursson BE, Tan WC, Zwahlen M, Lang NP. A systematic review of the success of sinus floor elevation and survival of implants inserted in combination with sinus floor elevation. J Clin Periodontol, 2008.


3.Tan WC, Lang NP, Zwahlen M, Pjetursson BE. A systematic review of the success of sinus floor elevation and survival of implants inserted in combination with sinus floor elevation. Part II: transalveolar technique. J Clin Periodontol, 2008.


4.厚生労働省「医療広告ガイドライン」


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