マウスピース矯正がうまくいくかは装着時間しだいです。得意な歯並びと苦手な動き、毎日20時間が必要な理由、かかる費用と期間のめやすを歯科医師監修で解説いたします。
マウスピース矯正は、”やる・やらない”を決める前に、どんなものかを知っていただく事が第一歩になります。この記事では、メリットだけでなく、注意点や向かないケースも含めて整理していきます。
先日10代の患者さんが前歯部の軽度な叢生(前歯の小さな凸凹)をアライナー(透明なマウスピース型の装置)で約3か月かけて整え、後戻りを防ぐ保定の段階へ移ったケースがありました。親御さんも患者さん本人もとても喜んでいました。装着を1日20時間以上続けられたことが、スムーズな進行につながったと考えられます。
■向いている歯並び・苦手な動きを知る
アライナー(マウスピース)の矯正が力を発揮しやすいのは、軽度〜中等度の叢生やすき間といった、比較的シンプルな移動です。逆に、歯の大きな回転や、骨の中へ沈めるような動き(圧下)は不得意なことがあります。小臼歯を抜歯して行う矯正もご希望に応じて当院でも行なっていますが、基本的にはあまりマウスピースには向いていない治療であるという報告が学会や論文で出されています。
向き・不向きの判断は、印象だけでは決められません。レントゲンや口腔模型などを用いた検査・診断にもとづいて、適応かどうかが見極められます。ケースによっては、ワイヤーを部分的に併用する選択や、別の方法が妥当なこともあります。
■なぜ「1日20時間」が結果を左右するのか
アライナーは、装置を順番に交換しながら少しずつ歯を動かしていく仕組みです。装着時間のめやすは1日20〜22時間。食事と歯みがき以外は着けておく、という使い方が前提となります。
ここが最大の落とし穴です。移動量がそれほど大きくない症例であっても、着けている時間が不足すると、計画どおりに歯が動かないことがあります。外している時間が長くなるほど、想定とのズレは生じやすくなると言えます。マウスピースを外している時間は動かした歯が後戻りをする時間なのです。
きちんと20時間以上の装着を守れる方の場合は良いのですが、うまくいかなくてなかなか治療がスムーズに進まない方も稀にいらっしゃいます。
■かかる費用・期間と、知っておきたい注意点
費用と治療期間は、動かす量と範囲によって左右されます。一般的な目安は次のとおりです。
軽度の前歯部の改善が中心であれば、期間は3〜6か月程度(長いケースでは12ヶ月程度)、費用は30〜60万円ほど(自由診療)が一つの目安となります。保定装置や検査の費用は別にかかり、計画どおりに進まない場合は装置の追加作製で期間が延びることもあります。
複雑なケースでは、これより長く・高くなることも少なくありません。正確な金額と期間は、検査のうえ個別の見積もりでご確認いただくのが確実です。なお、効果や期間には個人差があります。
【よくある質問(FAQ)】
Q. アライナーは何時間くらい入れていれば大丈夫ですか?
A. めやすは1日20〜22時間です。食事と歯みがきのとき以外は着けておくイメージで、この時間を確保できるかどうかが仕上がりに直結します。
Q. つける時間が短いと失敗しやすいですか?
A. マウスピースはしっかり装着して初めて歯が動きます。装着しなければ歯が動かないだけでなく、むしろ動いた歯が後戻りする時間になります。計画どおりに歯が動かず、期間が延びたり、仕上がりに影響したりすることがあります。短い装着が続くと、想定とのズレが積み重なりやすくなります。
Q. すべての歯並びに使えますか?
A. 軽度〜中等度の凸凹やすき間は得意ですが、大きな回転や圧下などには限界があります。適応は検査・診断のうえで判断されます。ご希望により、大きな動きのケースでも様々な工夫をした上でマウスピースで行うこともあります。
Q. 治療が終わったあと、元に戻ることはありますか?
A. 動かしたあとの保定が重要です。保定装置を装着しなければ後戻りの動きをしてしまいます。長期の安定には、装置の使用とメインテナンスが欠かせません。しかしながら日本矯正歯科学会の指針では、保定は生涯の安定を保証するものではなく、加齢による変化が起こりうるとされています。
【 安全性についての注記(リスク・副作用・個人差)】
– 使い始めに、歯の痛みや違和感が出ることがあります。
– 装着時間が足りないと、治療が計画どおりに進まないことがあります。
– 治療後に後戻りが起こることがあり、保定が求められます。
– まれに歯根の吸収や歯肉(歯ぐき)の退縮が生じることがあります。
– 適応には限界があり、どの歯並びにも使えるわけではありません。
– 本治療は自由診療です。費用は50〜60万円、期間は3~6か月が一つのめやすですが、治療内容・結果には個人差があります。
【 監修者】
榊原 毅
日本口腔インプラント学会 専門医/インビザライン認定医/日本包括的矯正歯科学会 副代表/日本歯周病学会 認定医/厚労省認定臨床研修指導医(東京科学大学 歯学部)
「不安を煽らず、できること・難しいことも含めて丁寧に説明し、納得して選べる診療を心がけています。」
『何が自分に合うか』を一緒に考える相談の時間を大切にしています。横浜(妙蓮寺)でのご相談予約はこちら→(https://d-sakaki.com/)
横浜駅から約7分で妙蓮寺駅へ。駅から徒歩1分の通いやすい医院です。
【参考文献】
1. Robertson L, et al. Effectiveness of clear aligner therapy for orthodontic treatment: A systematic review.(PubMed)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31651082/
2. 公益社団法人 日本臨床矯正歯科医会 https://www.jpao.jp/
3. 日本矯正歯科学会『矯正歯科治療における治療指針』 https://www.jos.gr.jp/