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BLOG さかきばら歯科ブログ

矯正後に歯ぐきが下がった|歯肉退縮が起きる理由と術前術後の対処法

矯正で起こりうる歯肉退縮の原因と予防、起きてしまったあとの根面被覆までを整理。術前の歯周評価がカギです。横浜・妙蓮寺で解説。

歯科の相談は、痛みだけでなく”不安”も一緒に抱えて来られる方が多いものです。この記事では、判断に必要なポイントを整理して、落ち着いて選べる形にまとめました。

矯正後に歯ぐきが下がるのは”珍しいこと”ではない
矯正治療が終わって鏡を見たとき、「なんだか歯が長くなった気がする」「根元が少し見える」と感じることがあります。これは歯肉退縮(歯ぐきが下がり、本来覆われているはずの歯根面が露出する状態)で、矯正を経験された方に一定の頻度で起こりうる変化です。
歯肉退縮は見た目の問題にとどまらず、知覚過敏(冷たいものがしみる)、根面う蝕(露出した歯根のむし歯)、プラーク停滞によるさらなる歯周炎につながることがあるため、単なる”美容上の気になる点”として放置しないほうがよいサインです。

■なぜ起こるのか:原因は一つではない

日本歯周病学会の整理によれば、歯肉退縮には複数の要因が重なって発現するとされています。
• 解剖学的要因:唇側の骨(バッカルボーン)が薄い/歯肉バイオタイプが薄い(thin biotype)
• 矯正的要因:歯を顎骨の外側へ動かしすぎる、無理な歯列拡大、ブラケット周囲の長期的な炎症
• 清掃的要因:強すぎるブラッシング圧、硬い歯ブラシの長期使用
• 歯周的要因:矯正前の歯周病が未解決、メインテナンス不十分
• 習癖:咬合性外傷、クレンチング(食いしばり)

つまり、「矯正のせい」と一括りにできる現象ではなく、もともとの歯周組織の状態 × 歯の移動設計 × 日常ケアの掛け算で起きていると考えるのが適切です。

術前にできる予防:デジタルシミュレーションの使いどころ
予防のカギは”動かす前”にあります。

• 歯周基本治療を先に完了:プラーク・歯石・炎症を取り除いてから矯正を開始

• 歯肉バイオタイプの診査:プローブが歯肉を透過して見える場合は薄いバイオタイプのサイン
• CBCT(3次元CT)による唇側骨の厚み評価:薄い部位では移動方向を再設計
• デジタルセットアップ:ゴールの歯列を3Dで可視化し、顎骨の外に歯を出しすぎない計画に調整。
• 必要に応じた歯肉の事前処置:結合組織移植で歯肉を厚くしてから矯正を開始する。または仕方ない場合は術中、術後に歯肉移植を計画しておく
これらを省略して”見た目の歯列”だけ設計すると、骨の外に歯根が出て歯肉退縮を起こす—というのが典型的な失敗パターンです。
実は矯正治療を行う場合に歯周組織への配慮はとても大事なのです。

■よくある誤解

誤解①:歯肉退縮は矯正の必然的な副作用。 → 術前評価と設計でリスクは下げられます。ゼロにはできませんが、”仕方ない”では片付けない方針で臨みます。
誤解②:歯磨きを強くすれば予防できる。 → 逆効果です。強いブラッシング圧は退縮の原因の一つとされています。適切な圧(毛先がしならない程度)と柔らかめの毛が基本です。
誤解③:歯ぐきが下がっても、被せ物で隠せば済む。 → 根面被覆の方が、自分の歯肉・組織で回復できるうえ、長期的に安定しやすい選択肢になることがあります。
起きてしまった場合の対応:根面被覆の選択肢
代表的な術式は以下のとおりです。
• 歯肉弁歯冠側移動術:直下の歯肉を剥離し歯冠側に移動
• 結合組織移植術(CTG):口蓋から採取した結合組織を移植し、被覆と厚み増を両立
• 遊離歯肉移植術:角化歯肉の幅を増やす目的で用いる
• 歯肉弁側方移動術:隣接歯の角化歯肉を側方に移動
結合組織移植術は審美部位で選ばれることが多く、被覆率と歯肉の厚みの改善の両面で評価があります。適応判断は退縮の程度(Miller分類など)・歯間乳頭・骨の状態・全身状態を含めて行います。

■向いている方/向いていない方(一般論・根面被覆)

向きやすい:退縮が限局/歯間骨・乳頭が残存/歯周病が安定/非喫煙 向きにくい:重度歯周病未治療/歯間骨が広範に失われている/重度喫煙/全身状態が外科処置に適さない

■FAQ

Q. 矯正前から歯ぐきが薄そうと言われました。先に対処できますか?
A. 基本的には可能です。結合組織移植で歯肉の厚みを増やしてから矯正を開始する設計も選択肢ですが術前に精密な診査、適切なデジタルシミュレーションの作成をおすすめします。ご相談して治療計画を決めていきます。

Q. 根面被覆の費用はどれくらいですか?
A. 自由診療となる場合が多く、1歯あたり概ね10万〜15万円程度が一つの目安です(再生材料使用の有無、部位・術式・範囲で変動)。複数歯をまとめて処置する場合、別途設計・費用となります。保険が適用されるケースもあり、個別判断です。

Q. 根面被覆は痛みますか?
A. 手術中は麻酔下で行うため大きな痛みは感じにくいものの、術後数日間は違和感・腫れが出ることがあります。口蓋側(移植片の採取部)に違和感が出ることもあります。個人差があります。当院ではマウスピースを作成し傷口を保護しています。

Q. どのくらいで結果が安定しますか? A. 術後3〜6ヶ月で軟組織の成熟が進むとされています。長期安定には歯周メインテナンスとブラッシング習慣の見直しが欠かせません。

【安全性に関しての注記】

矯正治療・歯周外科処置(根面被覆・結合組織移植等)には、痛み・腫れ・出血・感染・移植片の壊死・被覆不全・知覚過敏の一時的悪化等のリスクがあります。すべてのケースで完全な被覆が達成されるわけではなく、効果には個人差があります。喫煙・歯周病の状態・全身疾患によって、全員に適応できるわけではありません。自由診療の場合の費用・期間は目安であり、症例により変動します。

【監修者】

榊原 毅 日本口腔インプラント学会 専門医/日本包括的矯正歯科学会 副代表/日本歯周病学会 認定医/インビザライン認定医/厚労省認定臨床研修指導医(東京科学大学 歯学部) 「不安を煽らず、できること・難しいことも含めて丁寧に説明し、納得して選べる診療を心がけています。」

見た目が気になる、歯肉が元に戻るか心配、痛そう、、—その不安も含めてご相談ください。横浜エリア(妙蓮寺)で歯周組織にも配慮した包括的な矯正を行っている当院で丁寧にお話を伺います→https://d-sakaki.com/

【参考文献】
1. 日本歯周病学会『歯周治療のガイドライン 2022』 https://www.perio.jp/
2. 日本歯周病学会『歯周組織再生療法のガイドライン 2023』 https://www.perio.jp/
3. 日本矯正歯科学会『矯正歯科治療における治療指針』 https://www.jos.gr.jp/
4. Chambrone L, Tatakis DN. Periodontal soft tissue root coverage procedures: A systematic review. J Periodontol, 2015. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25644302/
5. European Federation of Periodontology (EFP) https://www.efp.org/